最近バイオフィルムという言葉が使われるようになってきました。バイオフィルムとは大きくいって、A. 微生物が関与して作られる膜状の物質、B. 微生物が増殖して厚みのある集団を作り、個々の微生物とは異なる性質を獲得して内部が守られている状態、という2つの概念があります。

 A. 微生物が関与して作られる膜状の物質は、パイプの内側など様々なところで見られ、主にヌルヌルして感じられる物質です。

 B. 微生物が増殖して厚みのある集団を作り、個々の微生物とは異なる性質を獲得して内部が守られている状態、は微生物に比較的厳しい環境で個々の菌では対応できない時などに、よりその環境に適応した形態をとると考えられています。

 お口の中の大半の細菌は、酸素があると生育できない偏性嫌気性菌の仲間です。ところが、歯垢という厚みのあるバイオフィルムを形成することにより酸素耐性が飛躍的に高まる事が分かっていて、その事によりお口の中で生育できるようになると考えられます。また多くの薬剤なども内部に浸透しにくくなります。

 こうなってしまうと、物理的にこすって落とす事が最も有効な手段の一つといえます。バイオフィルムに付着しやすい、とか内部に侵入しやすいといった工夫がされている薬剤や洗口剤もありますが、それだけではやはり不十分な事が多く、バイオフィルムの除去には、ブラシを丁寧に用いる事が重要で、補助的に他の方法も組み合わせてみても良いでしょう。

 バイオフィルムという観点からのブラッシングの考え方としては、1) 未成熟な歯垢はバイオフィルムとしての機能は不十分だと考えられます。2) 一旦バイオフィルムに取り込まれた栄養成分は、液体の洗浄では容易に流されません。これらのことから、歯垢は成熟させない、成熟してしまった歯垢は丁寧に除去する。糖などの歯垢の栄養成分が取り込まれた場合は速やかに歯垢ごと除去する、という事が大切です。すなわち、食後はなるべく早く歯磨きをする、1日1回以上は時間をかけた丁寧な歯磨きをし、隠れているプラークも徹底的に除去する、という事が重要だと考えられます。