歯周外科手術による歯周組織再生治療として組織再生誘導法(GTR法)や歯周組織再生医薬品(歯周組織再生剤)などが保険治療でも認められるようになってきています。

 従来困難であった歯周組織再生が期待できる画期的な方法ですが、1広範囲に骨が痩せてしまってぐらぐらになっているような場合は、既に手術の適応ではないと考えられます。2手術が適していると考えられる場合でも、保険診療で行うには、事前に歯周病の検査や手術によらない方法での歯石除去を行い、それでも治らない場合に適応となりますので、手術に至るまでに同じ歯科医院で継続して数ヶ月程度連続した治療が必要になることもあります。3手術をしても歯周病になる以前の若い頃の状態になるとは期待できない場合が多いですし、適切なプラークコントロールが行われないなど悪化する要素がある場合には、良好な成果が得られない場合もあります。といったこともご理解ください。

 とはいえ、歯周病を大きく改善し得る、現在注目されている手法ですので、かかりつけの先生とご相談されてみてはいかがでしょうか。

歯周病

健康な歯肉[図1]
  • 歯肉の色はピンク
  • キュッとひきしまっている
  • 歯と歯の間はとがった三角形
  • ステップリングというみかんの皮のような小さい窪みがたくさんある事がある
1.歯周病とは?

 昔は、歯槽膿漏と言われたりしましたが、現在では、正式にはより広い概念として歯周病とか歯周疾患と言われています。

 歯周病は、歯周組織(歯肉、歯ぐき)[図2] に細菌によって引き起こされる病気で、歯肉から始まり、進行して骨などを破壊していきます。具体的には、歯肉は赤く腫れ、歯を取り囲んでいる骨は徐々に溶けて痩せて歯がグラグラして最終的には抜けてしまいます。

 この病気は、重度に進行するまで明確な自覚症状が現れない事も多く、発見が遅れ、末期的な症状になってから受診される事も多いようです。

2.歯周病の原因

 歯周病はむし歯と同様に複数の原因が重なり合って起こります。すなわち、口の中の状況、食生活、生活環境、全身の健康状態などが複雑にかかわり発生・進行していきます。

 歯周病の局所的原因として大きいのは、プラーク(歯垢、しこう)[図3] です。歯周病となり、歯肉が腫れたり歯肉と骨が剥がれたりして歯周ポケットができると、周囲に停滞する事で更に悪化していきます。プラーク中に生息する細菌は、食物残渣を分解し、歯肉の炎症を誘発する有害物を産生します。また、内毒素や酵素を有し、歯槽骨まで炎症が進み,骨の吸収を起こします。

3.歯周病の症状[図4]

 初期では歯肉が赤くなったり、膨らんで丸みを帯びたりしてきます [図5] 。歯を磨くと出血することもあります。歯石ができてくるとさらに腫れやすくなります [図6] 。病気が進行すると、徐々に、骨が溶けていきますが、自覚症状は強くない事が多いです [図7] 。骨の吸収がどんどん進むと、歯がぐらついたり、浮いた感じがしたり、痛くて噛めない、歯ぐきが腫れてくる、血や膿が出るなどの症状が出てきますがここまでくるとすでに歯が抜ける直前の末期となっている事も多いです。また、口臭もひどくなります。

[図4]

 

こんなときは要注意!!

  • 白い汚れ(プラーク)や歯石がついている
  • 歯肉の色が、赤みがかりブヨブヨしてきた
  • 歯を磨いたり、食物をかじったりすると歯ぐきから出血する [図8]
  • 歯と歯の間に物が詰まりやすい
  • 冷たいものがしみるようになってきた
  • 歯ぐきが下がって歯が伸びたようになってきた
  • 歯がぐらつく
  • 時々歯ぐきが腫れて [図9]、押すと膿が出る
  • 口の中がネバネバする
  • 口臭がすると言われる
4.歯周病の治療法

 歯周病の検査をして状態を確認してから、ブラッシングを徹底していただき、歯科で歯肉の上の大きな歯石を取り除きます。

 歯周病は歯と歯ぐきの間にある歯周ポケットが、病気が進むにつれ、徐々に深くなっていきますが、初めの治療だけではよくならない場合は、そのポケットの中の歯根に付いた歯石を取り除いたり、場合によってポケットを掻爬したりしていきます。

 これらの処置で、ある程度進んだ歯周病でも大分改善します。また更に小さな手術をする方法などさまざまな処置がありますが、適不適もあります。何れにしても、手遅れになる前の、早期発見、早期治療が大切ですから、「痛くないからもう少し放っておこう」、「抜くしかないだろうから諦めよう」などと御自分で決めつけずに早めに主治医と相談してください。

喫煙と歯周病

 日本では成人男性の約27.1%、女性では 7.6%、平均し16.7%が喫煙者です(令和元年国民健康・栄養調査報告)。この比率は減少傾向にはありますが、国民一人当たりの年間タバコ消費量も含め国際的にみて低い水準とは言えません。

 喫煙の習慣は健康を害する可能性が高く、さまざまな病気の発症と関係しており、また喫煙はがんの原因の約30%を占めるとも言われ、口腔がん、喉頭がん、肺がん、胃がん、肝臓がんなど多くのがんにかかる危険性が高まります。近年急増している肺がん死亡数は胃がんを抜き、がん死亡の中で首位となっています。しかし、歯科の疾患、とくに歯を失う大きな原因の歯周病とも関連があることは、意外と知られていないようです。 タバコにはニコチン、タール、一酸化炭素、シアン化物をはじめとする2,000種類以上の潜在的な有害物質が含まれております。それらの物質が肺や心臓に害を与えるように、歯の周りの組織(歯周組織)にも悪い影響を及ぼします。

歯周病Q&A

歯周病は、大人の病気?

[図10] 若年性歯周炎

 歯周病は、加齢とともにそのリスクは高まりますが、高齢になっても健康な歯ぐきを保っている人も多くいます。その反面、最近は若い世代でも増加傾向にありますし、若い世代で急速に進行してしまう若年性歯周炎という病気もあります [図10] 。歯周病予防は、若いうちから必要です。歯ぐきの健康診断を定期的に受け、自分の歯ぐきの状態を常に把握し、管理をし続けることが必要です。

 

[図11]

CPI(地域歯周疾患指数)コード0が健康、1が検査時歯肉から出血、2が歯石あり、3が浅い歯周ポケット、4が深い歯周ポケットで、2以上から歯石除去など本格的な治療が必要です。

思春期と歯肉炎に関係はありますか?

 10~15歳頃の子供から大人になる心身の激しい変動の時期を思春期と呼びます。 この時期にお口の中の清掃不良が主因となり、ホルモンの変調により歯肉炎の進行が促進されることがあります。これを、思春期性歯肉炎と呼びます。

 お口の中の清掃を徹底しプラークコントロールを行い適宜歯石を取り除く事で治癒が期待できます。

口臭が気になります。歯周病でしょうか?

 口臭は、自分自身で感じることもありますが、人から指摘されて初めて気がつくこともあります。どなたでも多少コンディションによってご自身で感じる事がありますが、これは些細な変化を感じとっている場合も多く、社会生活の上でもあまり問題のない事も多いです。

 ご自身ではもう慣れてしまっていてあまり感じないが、ご家族などから頻繁にご指摘がある、などの場合、一定以上の時間、一定以上の匂いがある場合もあります。

 口臭の原因は、単に匂いの強い飲食物を摂取した一時的なものの他に、全身的な問題と、お口の中に問題がある場合があります。 全身的な原因としては、蓄膿症・咽喉炎・気管支炎などの呼吸器疾患、食道や胃などの消化器疾患、糖尿病などが挙げられます。

 お口の中の原因としては、清掃が行き届いていなかったり、虫歯や歯周病で膿がたまったりしていることなどが挙げられます。

 いずれの場合でも、何らかの病気のサインである場合もありますし、歯科など医療機関を受診されては如何でしょうか。適切な治療を進め取り除ける原因は改善させて、またご自身でも歯磨きをきちんとして、お口を清潔に保つことが大切です。

むし歯がないのに歯がしみるのはなぜ?

 「冷たいものを食べたり飲んだりすると歯がしみる。」「歯磨きのとき、歯ブラシが当たるとしみる。」という症状はありますか?虫歯などの場合も多いですが、知覚過敏という状態の事もあります。これは、典型的には、歯周病などで歯肉が下がり、歯の根がむき出しになり、そこから刺激が神経に伝わってしみるような痛みを感じます。虫歯や歯周病でなかったとしても、普段は痛みが無いためそのまま放置してしまうと、歯磨きのとき痛みを伴い磨くのが苦痛になってきます。その結果、歯垢をきれいに取れなくなり、虫歯や歯周病などの疾患を招く原因となります。早めに歯科医院で適切なアドバイス・処置を受けましょう。

歯ぐきが腫れたけど膿が出て腫れもひいた・・・治ったのでしょうか?

 歯ぐきが腫れても [図12] [図13] 薬を飲めば、またはそのまま放置しているうち膿が出て、腫れも引いて痛みもなくなり、なんとなく治ったように感じる事があります。しかし実際は急性症状が治まっただけで、放置すると腫れを繰り返したりして、どんどん悪化する場合も多いです。

 早めに根本的な治療を受けましょう。

歯周病にかかったら、歯を抜くしかないのですか?

 現在では、治療法も進歩して、以前よりずっと歯を残せるようになりました。それでもかなり進行した状態では、抜かざるを得ないこともあります。なるべく早い段階で治療をしたほうが長く歯を抜かずに済みます。そのためにも定期健診を受けましょう。

妊婦は歯が弱くなるって本当ですか?

[図14] 妊娠性歯肉炎

 よく、「妊婦は胎児にカルシウムをとられる」とか「出産すると歯が弱くなる」と言われます。妊婦がむし歯や歯周病になりやすいのは事実ですが、子供に栄養を取られるからではありません。妊娠すると内分泌機能が変化して唾液のpHが下がり、プラークがつきやすくなります。また、つわりなどで体調が優れず、歯を磨くのが辛かったり、おっくうになることも原因です。

 いつもの歯ブラシより小さめのものを用いたり歯磨き粉の量を調整したりして、嘔吐感を避けるように工夫して磨きましょう。

早産になる危険性がアップ!?

 妊娠するとホルモンの変化の影響で歯周病になりやすく、母体内の赤ちゃんにも影響を及ぼすことについて研究発表が増えてきています。例えば、妊娠中の歯周病が早産の原因にもなり得ることが国際的にも報告されています。

 歯周病菌が血管内に進入して、早産や低体重児出産を引き起こす危険性は飲酒や高齢出産より高い確率だという研究もあります。

 ただし、歯周病は、早期に治療すれば良好な状態でコントロールできる場合も多いので、妊娠する可能性のある方、妊婦の方は早めに歯科医院を訪ねてみて下さい。

歯周病の予防法はありますか?

 歯周病は、いろいろな原因が重なって起こりますが、最大の原因はむし歯と同じプラーク(歯垢)です。毎日歯磨きをして、プラーク(歯垢)や歯石が着かないように歯と歯肉を常に清潔にしておきましょう。また、歯周病は、体の病気とも関連することがあるため、健康にも気をつけましょう。歯医者さんでの定期的な歯ぐきのチェックも忘れずに!

[図1・図3・図5・図6・図7・図10] 歯周病をなおそう 鴨井久一、沼部幸博 著 砂書房
[図2] 日本歯科医師会雑誌第55巻7号 平成14年10月10日発行<付録>
歯っぴいスマイルVOL.10 日本歯科医師会 著
[図4・図14] 命を狙う口の中のバイキン 奥田克爾 著 一世出版
[図8・図9・図12・図13] かかりつけ歯科医対応 主訴・症状別病態写真シート「か初診」算定用病態写真集
鴨井久一、沼部幸博、川村浩樹 著 クインテッセンス出版株式会社
[図11] 県民歯と口の健康プラン~いい歯カムカムすこやか富山~ 富山県 著